皆さんこんにちは!本日も発達障害等に関する学びや情報交換の場になることを願って投稿させて頂きます。
今日のトピックは「発達障害とペアレントトレーニング」についてです。
お子さんが好ましくない行動をした時に、叱っても改善せず、困ることはありませんか?
お互い疲れてしまいますね。
そんな関わり方を知りたいですね。
今回は、ペアレントトレーニングのやり方や、発達障害で実施する時の注意点をお話します。
目次
ペアレントトレーニングの目的
生活の中で、お子さんに「好ましくない行動」が見られた時、親御さんはどのように対応しますか?
例えば、お店でお菓子を買って欲しくて、床でバタバタ暴れている時。
(A)親は仕方なく買ってあげる → 子は次回もねだって暴れる
(B)親は叱る → 子は叱られても止めない、もっと激しく暴れる
しかも、けっきょく暴れるので悪循環!!
このような時に、お子さんの好ましい行動を増やし、好ましくない行動は軽減する。
しかも、お互いにストレスなく、良好な関係を作ることができる。
そんな対応方法ができたら良いと思いませんか?
そのような対応方法を、親御さんに身に着けて頂くトレーニング法を、「ペアレントトレーニング」と言います。
直訳すると「親の訓練」。
お子さんの好ましい行動を延ばしたい時、「お子さんの行動自体」に改善を求めるのではなく、「親の接し方」に着目したアプローチ方法です。
ペアレントトレーニングの目的は、「親が子どもの心理や行動パターンを理解し、適切に関わることで、お子さんの発達促進や行動を改善すること」です。
アメリカで開発され、当初の対象は「知的障害や自閉症などの子どもを持つご家族」でしたが、日本では発達障害だけでなく定型発達のお子さんにも幅広く使われており、非行、虐待、里子や養子を対象にしたプログラムも開発されています。
ペアレントトレーニングの方法
子どもの行動に大きな影響を与える「親の反応」とは?
まずは、具体的なトレーニングの方法に入る前に、ペアレントトレーニングの全体像を確認しましょう。
先にお話したように、ペアレントトレーニングとは「親御さんがお子さんとの接し方を学ぶ訓練」です。
親の接し方、つまり親の反応の中で、お子さんに一番影響を与えるものは何でしょうか?
それは「注目」です。
本来、子どもは注目されたいものです。
逆に、「注目されない、相手にされないこと」を嫌います。
そのため、いろいろな方法で注目を引こうとします。
しかし、宿題をしたり、お手伝いをしたり、当たり前のことをしていてもなかなか注目されません。
そんな日常生活の中で、必ず注目を得られることは「怒られること」。
そのため、本人が意図していなくても怒られることをして注目を得ようとするお子さんもいます。
怒られることをすると、親が叱って注目してくれる。
なので、また怒られることをする。
この悪循環が強化されていきます。
ペアレントトレーニングでは、この「親の注目」によって、子どもの行動がどのように影響されているのか学習していきます。
決して、「お子さんの行動を都合よくコントロールする」ということではありません。
お子さんの好ましい行動を増やすために、叱ったり強制するのではなく、良好な関係を築きながら関るということに主眼を置いています。
「注目」と「無視」すること
「親の注目」が子どもに大きな影響を与えるとお話しましたが、この「注目」には大きく分けて2種類あります。
【ポジティブな注目】
生産性のある反応を返すこと。
褒める・認める・感謝する・励ます・微笑む・笑顔を返す・関心を示す・スキンシップ・次の行動に誘う、など。
【ネガティブな注目】
生産性のない反応を返すこと。
注意する・叱る・怒鳴る・ため息をつく、など。
どちらの「注目」も、子どもの行動を強化する力があります。
では逆に、「子どもの行動を弱める・減らす」親の反応は何でしょうか?
それは、「注目しないこと」。
つまり、無視することです。
無視すると言っても、お子さんの存在自体を無視するわけではありません。
お子さんの「行動」を無視するのです。
その具体的な方法については、あとでお話していきます。
それでは、ペアレントトレーニングの実際のやり方を見ていきましょう。
お子さんの行動を3つに分ける
お子さんの「宿題しない」「友達を傷つけるようなケンカをする」などの行動に、同じように反応していませんか?
すぐにでも止めさせるべきもの、そんなに強く叱る必要がないもの、いろいろなレベルが混在しています。
まずは3つのレベルに分けて、お子さんの行動を整理してみましょう。
◆グリーンレベル:好ましい行動
挨拶をする、片付ける、年下の兄弟の世話をする
◆イエローレベル:好ましくない行動
騒ぐ、ぐずる、口喧嘩をする、屁理屈を言う、宿題を後回しにする
◆レッドレベル:危険な行動・許しがたい行動
暴言・暴力など自分や他人を傷つける言動、物を壊す
3タイプ別の対応法
お子さんの行動を3つのタイプに分けたら、その3タイプ各々に親はどのように反応したら良いか見ていきましょう。
グリーンレベル:褒めて行動を増やす
グリーンレベルの行動には、褒めたり認めたりして、習慣づけるように促します。
どうやって好ましい行動を強め、習慣付けるか?
そこで活用するのが、先ほどお話した「ポジティブな注目」です。
お子さんは注目されることを望みます。
好ましい行動が見られたら、褒めるなど「ポジティブな注目」をしていることをしっかり伝えましょう。
年齢やお子さんの状況によって、グリーンレベルの内容は違ってきます。
幼少期は「話を聞ける、返事をする」などですが、年齢が上がると「自ら宿題や片付けをする」など、より高度な内容になってきます。
しかし、いつも叱ってばかりだと、なんと声を掛けたらよいか困ることもありますよね。
また「片付けをはじめたが、最後まで上手くできず、褒めるタイミングを逃がす」ということもあります。
褒める時は、以下のポイントを参考にしてください。
褒める時のポイント
- 最後まで完成するのを待たず、お子さんがやり始めた時に褒める。
- 褒める時は近づき、お子さんの目の高に合わせる。
- 「いつもこうなら良いのに」など皮肉は言わない。
- 難しいことに取り組んでいたら、励ます。
- 既に習慣化している「現在できている行動・増やしてほしい行動」も褒める。
- 褒める時は「自分で~して偉いね」と、行動を具体的に褒める。
- お子さんの年齢や性格によって、褒め方を変える。
(大袈裟でなく「微笑む」など静かに褒める、など)
イエローレベル:無視して行動を減らす
「宿題を後回しにする」など、危険ではないが、好ましくない行動が見られたら、その行動を無視しましょう。
お子さんの存在を無視するのではなく、「行動」を無視します。
叱るだけでなく、ため息をつくなどの「ネガティブな注目」をしないように注意しましょう。
無視すると、お子さんの行動がエスカレートすることがありますが、ここで反応してしまうと、「強く出ると自分の方を見てくれる」と思ってしまいます。
こうなると、イエローレベルの行動を強化してしまうことになり、悪循環にはいってしまいます。
無視する時のポイント
- イエローレベルの行動が見られたら、すぐに無視を始める。
- 一時的にイエローレベルの行動が強まっても、反応しない。
- 感情的にならず、一定に。深呼吸、他の家事などしながら待つ。
- 自分の怒りの感情を抑え込むと爆発することがあるので、
「私は怒っているな」と冷静に受け止める。 - その場を離れず、お子さんの様子が分かるようにする。
- 視線は合わせず、体の向きを変える。(注目していないと示す)
- 褒める準備をしておく。
イエローレベルの行動が止まったら、すぐに褒め、次の行動に誘う。 - もし、またイエローレベルの行動が再開したら、無視を始める。
レッドレベル:危険な行動を減らす 子供に責任を取らせる
レッドレベル(自他を傷つける危険な行動)の基本的な対応は、自分の行動に責任を取らせることです。
「責任を取らせる」とは、体罰を与えるという意味ではありません。
ペナルティを与えるということです。
例えば、「ゲームなどその時夢中になっているものを取り上げられる」などです。
「自分が人に迷惑をかけ、それを止めることができない場合は、自分の好きなことを失ってしまう」ということを、子どもに学習させます。
責任を取らせることが目的ではないので、できるだけレッドレベルをイエローレベルの行動まで移行できないか考えてみましょう。
可能な限り「褒める」と「無視する」の組み合わせで対応し、どうしても難しい場合にのみ「責任を取らせる」方法を取ります。
レッドレベルの対応のポイント
- 責任を取らせることが目的ではなく、これ以上はダメだという限界を伝えることが目的。
- 行動をコントロールするチャンスを与える。
- どこかで褒めるチャンスがないか、意識を持つ。
ペナルティの一例といて、「タイムアウト」があります。
ゲームなど、その時お子さんが夢中になっているものを一旦取り上げ、部屋の隅などで一定時間過ごさせます。
お子さんにとっても、気持ちを落ち着けるクールダウンにもなります。
タイムアウトのポイント
- 他の家族にも協力してもらうため、事前に伝えておく。
- お子さん自身にも、どんな時にタイムアウトを使うのか話しておく。
- 何のためにするのか、事前に伝えておく。
「イライラで暴れたら、自他ともに傷つくから。その時はここに座って、気持ちを落ち着けよう。ゲームも10分間中止。」 - 外に締め出したり、閉じ込めたりしない。
家族が集まり、目が届き、暗くない場所。危険や楽しいものがない、刺激な少ない場所。 - 時間を決め、長引かせない。子供の年齢を目安にする。
(10歳なら、10分。) - 終了したら「タイムアウト終わり」と伝える。
その後は決して説教を続けない。
アンガーマネジメント
「怒らずに待つ」こともエネルギーを使いそうですね。
感情的に怒らない技術に、「アンガーマネジメント」というものがあります。
アンガーマネジメントとは、怒りの感情と上手に付き合うための心理教育・心理トレーンングです。
「怒りを抑え込む」という訳ではありません。
「怒りをコントロールする」ことを目的としています。
衝動的に怒るのではなく、怒らなくても良いことは怒らず、怒るべきことも衝動的にならずに伝える技術です。
以下の「衝動・思考・行動」の3つの観点で、怒りをコントロールしていきます。
◆「衝動」をコントロールする
怒りのピークは、はじめの6秒間だと言われています。
深呼吸をしたり、怒っている内容を考えないようにして、6秒間やり過ごしましょう。
衝動的に行動することを抑えられます。
◆「思考」をコントロールする
「こうあるべきだ」と思っている自分の許容範囲を広げましょう。
自分が必然と思っていることを裏切られると、人は怒りを感じます。
しかし、その許容範囲の枠は人それぞれです。
少し自分の許容範囲を広げると、怒ること自体が減っていきます。
◆「行動」をコントロールする
怒っても「変えられるもの」と、「変えられないもの」があります。
もし「変えられないもの」であるなら、怒っても仕方がないのです。
怒って事態が解決するのか?
怒ることが最善のことなのか?
自問してみましょう。
もし怒ることが最善でなければ、怒ること以外で解決する方法を探してみましょう。
発達障害で実施する際の注意
一般的なペアレントトレーニングのやり方についてお話しましたが、発達障害は各々特性が違うため、注意が必要です。
発達障害とは、脳機能の発達がアンバランスで、その凸凹によって社会生活に困難が生じる障害の総称。行動や認知の特性により、主に自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の3つに分類される。
これら3つの特性を単独ではなく、複数持っている人も少なくない。
発達障害の特性のため、親御さんが「ポジティブな注目」をしたり、逆に「注目しない」という反応をしているのに、お子さんは気付いていない場合があります。
また、お子さんに「イエローレベル」などの行動が見られた時も、それが発達障害の特性が大きく影響している場合は、ペアレントトレーニングの基本通りに対応しても効果が得られにくい場合があります。
発達障害の特性に応じて、注意する点をまとめましたので、参考にしてください。
ASDの場合
特性
- こだわりが強い。
- 突然の予定変更が苦手。
- 先の見通しが立たないと不安。
- 曖昧な表現では理解できない。
- 人の目を見て会話しない。コミュニケーションが不得意。
◆事前に説明しておく
ASDの場合、拘りが強く急な予定変更も苦手なので、「どのような時にタイムアウトするのか」事前に充分説明しておきましょう。
「タイムアウト」する際も「10分間」「時計の針がここに来るまで」など、本人に分かる方法で「いつまで、あとどれくらいタイムアウトをするのか」伝えましょう。
◆曖昧に表現せず、具体的に伝える
「それを止めなさい」など曖昧な表現では伝わっていないかもしれません。
「何がいけないことなのか、何を止めるのか」具体的に伝えましょう。
◆本人に伝わるよう工夫する
グリーンレベルの行動が見られて親が褒めても(ポジティブな注目)、イエローレベルの行動が見られて親が体の向きを変えても(注目を与えない)、本人にその反応が届いていない場合があります。
褒める前に名前を呼んだり、肩を叩いて注意を引き、「~できて偉いね」など具体的に伝えましょう。
また「無視」していても、お子さんには伝わっていない可能性もあります。
「~している間は、お母さんは相手をしません」と、言葉でも伝えることも試みましょう。
ADHDの場合
特性
- 集中力に波があり、過集中になると途中で活動を止められない。
- 衝動的に行動してしまうことがある。
- 注意が逸れやすい。
◆早めにクールダウンする
ADHDの場合、衝動性のコントロールが難しいことがあります。
そのため、つい衝動的に行動してしまい、すぐに自他ともに傷つけるようなレッドレベルの行動が見られることもあります。
そうなると、本人も後で後悔し、自己肯定感が低くなるなど二次障害が生じる可能性もあります。
それを防ぐためにも、本人と話し合ったうえで、少し早めに「タイムアウト」することも考えましょう。
「イライラが抑えられないと、後で自分も辛い気持ちになるから。そうなる前に、早めにその場を離れよう。落ち着ける場所に行こう。」など、自分でも対処できるように伝えます。
◆環境を整える
注意がすぐに逸れてしまうという特性もあります。
他のお子さんが集中して取り組めていても、本人にとっては難しい場合もあります。
そのような時は本人とも相談した上で、視界に余計なものが入らないよう席替えをするなど、周囲の環境も工夫しましょう。
LDの場合
特性
- 読む・聞く・書く・計算するなど、特定の分野の学習が困難。
◆本人に伝わる方法を選択する
例えば聞くことが苦手なお子さんの場合、一般的な方法で注意しても伝わっていないかもしれません。
書いて伝えるなど、本人が分かる方法で伝えましょう。
感覚過敏の場合
発達障害には脳の器質的な違いが見られますが、そのために感覚の受け取り方(感覚統合)が通常の人と違っている場合があります。
通常の光や音でも、強く不快に感じることを「感覚過敏」と言います。
五感(味覚・嗅覚・視覚・聴覚・触覚)に加え、固有感覚(身体に対する意識の知覚)・前庭感覚(身体の傾きやスピード、回転の知覚)を含めた7つの感覚を環境に合わせて受け取る調整ができる能力。
通常は発達とともに統合され、無意識に環境へ適応できるようになる。
◆不快な刺激をさけるよう環境を整える
通常の音や光でも不快に感じたり、音を選択的に集中して聞くことができないため、ざわついた中では人の話が聞きとりにくいことがあります。
「集中して勉強しなさい」「話を聞きなさい」など注意しても、本人の努力では改善できません。
そのような場合は、「窓側の席では眩しいため、席替えする」など、不快な状況を取り除くことから考えましょう。
イエローレベルやレッドレベルの行動が見られる時は、本人でも感情のコントロールが難しく、気持ちを落ち着かせるクールダウンが必要な場合があります。
こちらの記事では、発達障害におけるクールダウンの方法などについて書かれていますので、参考にしてください
ペアレントトレーニングを受けるには?
実施機関
最近では、保健センターや児童相談所、学校などの教育機関でも実施されているようです。
日本で行われているペアレントトレーニングにはいくつか種類があり、種類によってプログラムの内容や費用・所要時間などが違います。
自治体実施するものだと1回1000円ほどのこともありますが、民間の実施するものでは数万円かかることもあります。
数時間の講義とグループワークを定期的に行い、半年で6~10回ほど実施するものが多いようです。
中には、親子で他の参加者と一泊の合宿をしながら、専門家が指導したりプログラムを作成するものもあるようです。
地域によってはインターネットで検索してもなかなか実施機関が見つからないことがあります。
そのような場合は、発達障害者支援センターなど身近な発達支援に関わる機関に問い合わせてみましょう。
参加が難しい場合
自治体などで行われるペアレントトレーニングは、定期開催で半年ほどかけるものが殆どです。
予定が合わなかったり、参加が難しい場合もあると思います。
そのような場合はペアレントトレーニングを学べる本もあるので、自主学習することも可能です。
こちらの本は、漫画でお子さんとの接し方が学べます。
失敗例もありますので、普段の接し方を振り返りながら学べると思われます。
こちらは海外のものを翻訳した本のため、日本の生活様式には合わない点もあるかと思いますが、ADHDに限らず、対応が難しいお子さんとの接し方の参考になると思われます。
完璧を目指さない
お子さんの好ましい行動を延ばしたい時、「お子さんの行動自体」に改善を求めるのではなく、「親の接し方」に着目したアプローチがペアレントトレーニングです。
あくまでの1つのアプローチ方法であり、「こうするべきだ」と強制するものではありません。
「叱らない」「無視する(注目しない)」など、急に対応法を変えることは難しく、上手く対応できないことで返ってストレスを感じる場合もあるかもしれません。
導入する際は、はじめから完璧を目指さず、良いと思った部分を無理なく少しずつ取り入れることから始めてみましょう。
まとめ
今回は、親御さんがお子さんとの接し方を学ぶ「ペアレントトレーニング」を紹介しました。
お子さんに好ましくない行動が見られた時、「お子さんの行動自体」から変えるのではなく、「親御さんの関わり方」に着目して、そこから良い反応を引き出そうとするものです。
トレーニングという名の通り、これには親御さんの訓練が必要です。
初めから上手くいくとは限りませんし、あくまでも1つのアプローチ方法ですので、無理なく取り入れることから始めてみましょう。
児童発達支援と放課後デイサービス 運動・学習療育アップでは発達障害のある児童を対象に、デイサービス事業を行っています。
お子さんの成長や個性に合わせて様々なプログラムを実施しています。 生活の中の困りごとについても、お気軽に相談してください。