皆さんこんにちは!本日も発達障害等に関する学びや情報交換の場所なることを願って投稿させて頂きます。

今日のトピックは「発達障害に見られる空間認知の問題」についてです。

発達障害のお子さんで、練習してもなかなか字が書けなかったり、運動や道具の操作が苦手な様子が見られることはありませんか?

もしかしたら、その前段階である「感覚や認知の段階」で躓きがあるのかもしれません。

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青木
テニスでも、ラケットが変な方向を向いていたり、ボールが飛んで来る所とぜんぜん違う位置でラケットを振ったり。なかなか上達しません。
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大竹
空間認知の問題は、発達障害との併発が多いようです。
今回は、空間認知に焦点を当てながら発達障害の「苦手」を理解し、成長の段階を踏まえた支援を考えてみましょう。

空間認知とは

空間認知とは

三次元空間における物体の位置・形状・大きさ・位置関係などを認識する能力。主にどの感覚系によって知覚されているかにより、視空間・聴空間・触空間などが区別される。

パラリンピックの競技になっている「ゴールボール」は、聴空間認知を利用したものです。視力の程度に関わらずアイシェードで視覚を使えない状態にし、鈴の入ったボールを転がし点を奪い合います。

箱の中に手を入れて、箱の中身を当てるゲームは、触空間認知を利用したものです。

上記のゲームのように、視覚を制限されると聴覚や触覚など他の感覚を利用して空間を捉えることがありますが、私たちは通常、主に視覚で空間を認知しています。

そのため、ここでは空間認知の中でも「視空間認知」に焦点を当ててお話していきます。

視空間認知

視空間認知とは、視覚から得られた情報を処理し、空間の全体的なイメージを捉える機能です。これにより、ものの形や奥行き、距離感などを把握することができます。

「見る力」の3ステップ

私たちは、見ることにより物を操作したり、身体を動かしたりしていますが、視空間認知はそのステップの一部分です。

  1. 入力(視力・眼球運動など)
  2. 情報処理(視空間認知)
  3. 出力(目と身体の協調性)

キャッチボールでは、まず飛んでくるボールを見て(➀入力)、ボールの速さや大きさ・飛んでくる位置を把握し(➁視空間認知)、その情報に合わせて身体を動かしボールを手で受け取ります(③目と身体の協調性)。

ものを見る時、上記のような3つのステップを踏みますが、各々は関連し合っており、どれか1つでも問題があると生活に支障が出ることがあります

視空間認知のはたらきと発達障害の関係

視空間認知の4つのはたらき

視空間認知を更に詳しく見てみると、以下のように4つに分類されます。

見たい対象を他の背景と区別する

視覚から得られるたくさんの情報から、その時に必要な情報を選び取り、見たい対象と背景を区別する機能です。

キャッチボールでは、ボールを集中して見ており、遠くに見える山や通行人は視界に入っていてもあまり気になりません。

この機能に問題があると、ボールに集中できず気が散ってしまうことがあります。

形や色を見分ける

視覚から得られた情報から、形や色を認識する機能です。

たくさんのボールの中から赤い物だけを選ぶ、同じ形の積み木を並べる課題などに役立っています。

この機能に問題があると、形や色が見分けられず、塗り絵や積み木、図形の問題などに支障が出ることがあります。

色や形が不揃いでも「同じもの」と認識する

色や形が多少違っていても、同じものだと認識する機能です。

形が崩れていても、書体が違っても、同じ文字だと認識できるのはこの機能のはたらきです。絵で見た「りんご」と、店で売っている「りんご」が同じものだと認識する時にも役立っています。

この機能に問題があると、お手本の文字と少し形が違うだけで「同じ文字」だと認識できなかったり、帽子をかぶったりマスクをするだけで「同じ人」だと認識できないことがあります。

位置関係を把握する

視覚で得た情報から、ものを立体的に把握し、空間の中での位置関係や向きを認識する機能です。

テニスではボールとの距離感を把握したり、ラケットの面をボールに合わせて調整する時などに役立ちます。

この機能に問題があると、図や絵から立体的なイメージができなかったり、物を取る時も距離感が分からず掴み損ねることがあります。

発達障害との関係

視空間認知と関係がある発達障害の困りごと

発達障害とは

発達障害とは、脳機能の発達がアンバランスで、その凸凹によって社会生活に困難が生じる障害です。行動や認知の特性により、主に自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の3つに分類されます。

視空間認知の問題と発達障害は併存しやすく、 発達障害の特徴の中には視空間認知が要因の1つであると考えられるものがあります。

  • 文字が書けない、覚えられない
  • 絵がうまく描けない
  • 地図が読めない、方向音痴
  • 車の運転が苦手で、右折や左折、駐車がうまくできない
  • 運動が苦手で、ラケットの操作やダンスの模倣ができない
  • 極端に不器用で、ハサミ等の物品操作ができない

発達性協調運動障害

発達障害に見られる不器用さの要因の1つに、発達性協調運動障害があります。

発達性協調運動障害とは

手足を同時に動かす、目で見た物に合わせて身体を動かすなど、協調運動に問題が生じるもの。身体機能に問題がないのに、脳が運動をコーディネートできないため、身体をうまく使えない障害。

前述したように、「見る力」には「入力・視空間認知・目と身体の協調性」の3ステップがありますが、この3つ目の「目と身体の協調性」とも関連するものです。

スキップする・階段を降りるといった大きな動作(粗大運動)から、ボタンをはめる・箸を使うなど手先の細かい動作(巧緻動作)まで、いろいろな動作に影響を及ぼします。

発達性協調運動障害については、こちらの記事も参考にしてください。

二次障害

視空間認知の問題によって、運動や学習・生活場面において様々な困難が生じます。運動の優劣や不器用さ、字がうまく書けないことは、子どもにとって大きなプレッシャーになることがあります。

それによるストレスや自己肯定感の低さから、うつ病や不登校などの二次障害が現れるかもしれません。

二次障害を防ぐためにも、お子さんの苦手なことに早めに気づき、改善したり苦手を補う方法を考えていきましょう

視空間認知の検査

自宅で行える観察

以下のような様子が見られないか観察してみましょう。

  • 読み書きが上達しない、形が大きく崩れる、マスからはみ出る
  • 図形問題が苦手、絵や平面図から立体物をイメージできない
  • 左右をよく間違える
  • 不器用で文房具など物の操作が苦手、紐が結べない
  • よく階段を踏み外す、物や人にぶつかる
  • 絵で見たものと実物が一致しない(絵と実物、どちらも同じ「りんご」だと分からない)

これらが当てはまれば「必ず視空間認知に問題がある」というわけではありませんが、お子さんに苦手の要因がどこにあるのか考える助けになります。

医療機関等でおこなう検査

視覚情報処理能力(視覚認知能力)を確認する検査には、以下のようなものがあります。お子さんの成長によって検査を複数組み合わせて施行することもあります。

視覚-運動統合発達検査(VMI-6th)

見本を見ながら(入力)、模写する(目と身体の協調性)ことで、 目と手の協調性を測る検査です。

視知覚スキル検査

視覚情報をどのように認識しているか把握する検査です。いくつか種類がありますが、お子さんの発達に応じた検査を選んで用います。

例えば、識別(色や形のマッチング)、空間関係(位置関係、傾斜の角度の把握)、閉合(一部を見て全体をイメージする)などがあります。

グッドイナフ人物画検査(DAM)

被験者が書いた人物画を用いて、人の顔や身体をどのように把握しているか発達を見る検査です。

他にも、知能検査であるWISC-Ⅳにも視空間能力を測る検査があります。

検査できる機関

視覚発達支援センターやトレーニングセンターで受けることができます。医療機関において臨床心理士や作業療法士などによって、場合によってはメガネ屋でも受けることができるようです。

しかし、これらの専門機関が近くに無かったり、民間の病院などは検査できるスタッフや検査用具が整っていない場合もあるかもしれません。

その際は発達支援センターや通っているデイサービスなど、身近な発達障害に関わる機関に相談してみましょう。

対処法

空間認知能力は、発達とともに身についていくものです。実際にものを見て、触わったり、動かしたりして、見たものと自分の身体の関係を経験していきます。

定型発達の子どもはこれらの経験により自然にできることが増えていきますが、発達障害では発達に凸凹があったり、同じ遊びや独特の遊び方をするため、これらの経験が不足することが考えられます。

空間認知を鍛える遊び

本人の好む遊びや感覚刺激を用いながら、遊びの中で様々な経験を増やしていきましょう。
空間認知を鍛える遊びとして、以下のようなものがあります。

  • 折り紙:平面の紙を折ることで、立体物を作る
  • 鬼ごっこ・かくれんぼ:隙間に隠れるなど、身体と空間の関係を把握する
  • 積み木:物の形状を把握すると共に、身体との協調性を経験する
  • 迷路などのゲーム、図形など用いるテレビゲーム
  • 模倣するダンス、球技などのスポーツ

様々な遊びが考えられますが、遊びや生活の中で「この積み木、ここに入るかな?」「この果物を切ったらどんな形になる?」など声掛けすることで、お子さんが空間を意識して予想・検証するように配慮しましょう

見る力を高める訓練

ビジョントレーニング

前述した「見る力」の3つのステップを高めるための訓練です。視空間認知の障害に限らず、スポーツ選手などにも取り入れられています。

プロのスポーツ選手では視覚訓練士が実施することもあるようですが、最近ではセルフトレーニングできる本や動画もあるようです。

「入力」の訓練では、眼球運動トレーニングなどを実施します。
「視空間認知」の訓練では、積み木や絵の模倣などを実施します。
「目と身体の協調性」の訓練では、矢印の通りに身体を動かすなど、目と体を連動させた練習を行います。

「書く」練習を支援する工夫

視空間認知の問題は、学習障害の特性の1つである「書く」ことが苦手な要因にもなります。

文字のバランスが悪かったり、字を書くマスの空間を把握しにくい場合は、カラーマスノートを試してはいかがでしょうか。

カラーマスノート

文字のバランスが悪い人や、視空間認知が弱い人のために作られたノートです。

4つのマスに色がついているため、文字を書き始める場所、ペンを動かす方向などを把握する手掛かりになります

こちらの動画では、「真ん中からピンク、緑にちょん」など声掛けをすることで、お子さんの書字練習における空間認知を支援しています。

まとめ

一生懸命に練習しても、なかなか上達しない書字や運動。
その前段階である視空間認知が育っていないと、次の段階の練習だけ行ってもなかなか成果が出ません。

発達障害は脳の発達の凸凹により、その一番下の土台である感覚から育っていない可能性もあります。

「見る力」のステップのように、感覚を知覚し、認識し、それに合わせて行動する。どの段階に躓きがあるのか把握することが大切です。

横浜市都筑区児童発達支援と放課後等デイサービス 運動・学習療育アップ

児童発達支援と放課後デイサービス 運動・学習療育アップでは発達障害のある児童を対象に、デイサービス事業を行っています。

お子さんの成長の段階を見ながら、様々な活動を提供しています。一緒に成長を促すお手伝いを考えていけたら幸いです。