皆さんこんにちは!本日も発達障害等に関する学びや情報交換の場所なることを願って投稿させて頂きます。
今日のトピックは「発達障害に見られる触りたがり」についてです。
子どもは何かと触りたがりますが、特に発達障害のお子さんに困った「触りたがる」行動が見られることはありませんか?
やめるように言っても聞かなかったり、状況によっては集団行動や遊びの中でトラブルになったり。通常のお子さんよりも、止めさせることが難しいことも多いのではないでしょうか?
目次
なぜ触りたがるのか?
自分から触りたがるのに、人から触られることは嫌がる。
本人も大好きな遊びをしたい様子なのに、他の物を触って遊びに集中できていない。
発達障害の子どもは、周りから見ると不思議に思われることも多いかもしれません。なぜ触りたがるのか理解するために、発達障害のタイプに分けて要因を整理してみましょう。
発達障害とは
発達障害とは、脳機能の発達がアンバランスで、その凸凹によって社会生活に困難が生じる障害です。行動や認知の特性により、主に自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の3つに分類されます。
発達障害のタイプによる要因の違い
ASD:自閉症スペクトラム障害
自閉症、アスペルガー症候群、そのほかの広汎性発達障害が含まれます。相互的な対人関係の障害、コミュニケーションの障害、興味や行動の偏り(拘り)の3つが特徴です。
場の空気や相手の表情を読み解くことが苦手、冗談や比喩などを理解することが困難、スケジュールなど特定のことへ強く拘る様子などが見られます。
行動:授業中でも特定の物にずっと触っている
要因:拘りが強い
行動:初対面の人に、不適切な距離感で触る
要因:場の空気が読めない
ADHD:注意欠陥多動性障害
発達年齢に見合わない多動性・衝動性、あるいは不注意、またその両方の症状が見られます。
じっと座っていられない、注意散漫、忘れ物が多いなどの特徴が見られます。
行動:説明の途中にもかかわらず、おもちゃを触りだす
要因:衝動性、注意散漫
LD:学習障害
知的発達に大きな遅れはありませんが、読む・書く・話す・聞くなど、特定の学習への困難さが見られます。
聴覚は正常でも聞いて理解することが苦手、文字は読めるに書けないなどの特徴が見られます。
行動:触らないよう張り紙をしているのに、触る
要因:文字を読むことが苦手で、理解できない
行動:触らないよう声を掛けているのに、やめない
要因:聴覚からの理解が困難
これら3つの特性を単独ではなく、複数持っている人も少なくありません。また脳の機能の特徴により、感覚の受け取り方が通常の人と違っている場合もあります。
五感(味覚・嗅覚・視覚・聴覚・触覚)に加え、固有感覚(身体に対する意識の知覚)・前庭感覚(身体の傾きやスピード、回転の知覚)を含めた7つの感覚を環境に合わせて受け取る調整ができる能力。
通常は発達とともに統合され、無意識に環境へ適応できるようになる。
発達障害に見られる感覚の凸凹では、過敏性を伴う報告が多いのですが、逆に感覚の受け取りが弱い感覚鈍麻という状態が見られることがあります。
感覚は脳の成長の土台であり、欠かせないものです。感覚入力が弱いため刺激を求める感覚探索として、「触りたがる」行動に現れることもあります。
無理に阻止するとどうなるか?
様々な要因がある「触りたがり」。
では、その行動を無理にやめさせると、どうなるのでしょうか?
場の空気が読めず他者に触れている場合、なぜ禁止されたのか分からず困惑するかもしれません。そのような経験が積み重なり対人関係が苦手になるなど、他の問題に繋がるかもしれません。
感覚入力が弱いことが要因である場合、十分な感覚が得られず、発達の支障となります。
他にもストレスを感じたり、うつ病などの二次障害が生じることもあります。
どうしたら本人が困らず、成長を促せるか?という視点で考えていきましょう。
周囲の人がすぐにできる対処法は?
「触りたがる」行動をやめさせようとする時、周囲の人はどのような対応ができるでしょうか?
「やめさせる」ことは容易ではありません。そもそも、その行動が「起こらないようにする」環境調整が効果的です。
ここでは、その環境調整も含めたすぐに取り組める対処法を紹介します。
タイプ別対処法
感覚探索行動への対応
感覚入力の不足による感覚探索が要因と考えられる場合、まずは触らせて満足させます。衛生的に問題がある物や、社会的に容認されない物が対象である場合は、その感覚に近い代わりの物を提示してみます。
触ると危険な物の場合
工作で使うカッターや尖った物などは、自由に触らせることはできません。その道具を見せながら説明するのではなく、まず危険性などを説明し、その後で道具を出します。
場にそぐわない過剰なスキンシップ
場の空気が読めない場合、相手が嫌がっていることにも気付かず、なぜ触ってはいけないのか分からないかもしれません。「どういう状況なら、どこまで触ってもいいのか」具体的に伝えます。
伝え方のポイント
伝え方にも工夫が必要です。
そのお子さんに合わせた伝え方をしないと、こちらは「伝えたつもり」でも、正確に伝わっていないかもしれません。
発達障害は、聴覚より視覚による理解のほうが得意な人が多いようです。また、一度に複数の指示をしない、変更は早めに伝えるなどの配慮が必要です。
各々の特性に合わせた対応を例としてあげてみましょう。
自閉症スペクトラム障害の場合
あいまいな表現が苦手です。聴覚からの理解が難しく、特に長い説明が分かりにくい傾向があります。
「どういう時、どういう場所、どういう相手なら、これくらいの接触までOK」と、細かく伝えます。数値化することも有効です。ルールや基準を明確に伝えることが効果的です。
注意欠陥多動性障害の場合
同時に複数の情報が入ってくると、どこに注意を向けてよいか分からず混乱します。伝える時は、周りに注意が逸れるものがないか、見えるものや聞こえる音にも配慮し、集中して話が聞ける環境を作ります。
学習障害の場合
得意なこと・苦手なことは、各々違います。「聞く」「読む」など、そのお子さんが分かる方法で伝えましょう。
また、禁止されてばかりでは自信がなくなってしまいます。
よく話が聞けたり行動がコントロールできた時は、褒めることも大切です。
こちらの動画では、接し方の工夫により行動がコントロールできるようになるなど、成長が見られています。
触りたがることの何が問題なのか?
場にそぐわない「触りたがる」行動を、やめさせようとする理由はなんでしょうか?
周りの迷惑になるから?
周りから浮いてしまうから?
いろいろな理由があると思いますが、一番大きな問題は本人の不利益になるからではないでしょうか。
本人の不利益
いわゆる「問題行動」や、言うことを聞かない様子を見た人から、「言うことを聞かない我儘な子」「人の嫌がることをする意地悪な子」というレッテルを貼られるかもしれません。
また、本人も「やめたいのに、やめられない」という場合があります。本当は好きな遊びに集中したいのに、気になって他の物に触ってしまうこともあります。
現れている行動に目が行きがちですが、それは本人の一部に過ぎません。
「触りたがる困った子」ではなく、その行動によって本人も困らされているということを忘れてはいけません。
妥協点を探すという選択肢
行動を調整することが、どうしても難しい場合も想定されます。
やめさせる必要が本当にあるのか考えたうえで、やめさせる方法ではなく、社会的に容認される形へ変更することも考えてみましょう。
どうしたら触っても良いか、どういう場所・時間なら容認されるか、妥協点を探すことも1つの方法です。
根本的な改善はできないのか?
現在のところ、残念ながら「完治する治療」というものはありません。
発達障害の特性は、その人の「ものの感じ方・考え方・行動の仕方」と深く結びついており、それを根本から変えることはできないからです。
アプローチの目的は「治すこと、普通に近づけること」ではなく、生活上の不便を小さくし、得意なことや強みなど「個性」を発揮できるよう成長を促すことになります。
子供の頃は支援者の工夫により、環境調整された中で適応できるかもしれません。家族や気の合う友達など限られた人間関係の中では、発達の特性による凸凹も個性として認められるかもしれません。
しかし、成長につれて人間関係は複雑になり、社会人になって生きづらさが顕著になることもあります。
子どもの頃から、特性や対処法を知りたかったという声もあります。
前述した対処法は、環境調整により短期的にその場を解決することだけが目的ではありません。
そのような整えられた環境の中で行動をコントロールする経験を積み重ね、段階に合わせて自ら調整できる練習をしていくという長期的な視点も必要です。
認知療法・認知行動療法
「現実の受け取り方」や「ものの見方」を認知といいますが、認知に働きかけて、こころのストレスを軽くしていく治療法を「認知療法・認知行動療法」といいます。
認知行動療法の1つであるSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)も、発達障害の訓練として用いられます。
社会技能(社会の中で普通に他人と交わり、ともに生活していくために必要な能力)と呼ばれるコミュニケーション技術の側面からとらえ、そのような技術を向上させることによって困難さを解決しようとする技法。
具体的には、練習場面を設定し、ロールプレイにより「どのような時には、どう行動したら良いか」練習をしていきます。
感覚統合療法
発達障害では脳機能のアンバランスにより、ある感覚刺激の受け取りが強すぎたり弱すぎたり、調整できなかったり、感覚の交通整理がうまくできないことがあります。
感覚統合療法とは、感覚統合理論を用いて対象者を理解し、適応反応を引き出すアプローチです。遊び等の活動の中で、適切な感覚を練習する経験を通し、刺激に対する反応の調整を練習していきます。
薬物療法
ADHDに見られる衝動性を緩和させる薬など用いることもあります。
薬物療法単独ではなく、他のアプローチと併用して検討されることが多いようです。
ここでは例としてあげていますが、薬物療法は必要性の有無も含めて医師に相談し、SSTや感覚統合療法は作業療法士など専門家による指導を受けることが必要です。
まとめ
いわゆる「問題行動」に対してやめさせることを第一に考えがちですが、今回はその要因を発達障害のタイプに分けて理解するところから対策を考えてみました。
環境調整によるその場での適応を促すだけでなく、長期的な視点で本人自身がコントロールできるよう支援していくことも必要です。
その目的は「普通」に近づけるためではありません。
生活上の困難を減らし、得意なことや強みなど「個性」を活かす方向にエネルギーを使い、成長を促すことが目的です。
児童発達支援と放課後デイサービス 運動・学習療育アップでは発達障害のある児童を対象に、デイサービス事業を行っています。
居場所づくりや学びの場として、また保護者の休息や相談できる場として、一緒に成長を促すお手伝いを考えていけたら幸いです。