皆さんこんにちは!本日も発達障害等に関する学びや情報交換の場所なることを願って投稿させて頂きます。
今日のトピックは「発達障害における音楽療法の効果と適正」についてです。


今回は発達障害における音楽療法の効果と、その適性についても見ていきましょう。
目次
音楽療法の効果と対象者は?

音楽療法はその名の通り音楽を用いた療法ですが、発達障害に特化したものではありません。
よってすべての発達障害の方にピッタリというわけではありませんが、適した方には非常に効果があると言われています。
まずは音楽療法について解説し、その後にどういった方に適しているかを解説していきますね。
音楽療法は目的ではなく手段
音楽療法というものを、あまりご存じない方も多いのではないでしょうか?
音楽療法学会では、以下のように定義されています。
音楽療法とは「音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」と定義します。
出典:日本音楽療法学会
音楽療法のセッションの中で楽器などを用いることもあるため、音楽技術の向上を目指すものと思われるかもしれませんが、それは目的ではありません。
音楽療法において、音楽は「目的」ではなく「手段」です。
つまり、音楽の心身や行動に作用する力を利用し、対象者の心身機能を維持・改善したり、望ましい行動を引き出すことが目的です。
どの効果を狙って音楽療法を用いるかは、対象者によって異なります。

音楽療法の効果と対象者
音楽療法学会では、音楽療法の効果は以下のように記載されています。
自律神経系、免疫系、ホルモン系への音楽の影響から、確実な音楽療法の有効性についてのエビデンスが構築されつつあります。医療領域では音楽による不安軽減や疼痛緩和効果が明らかになっています。
終末期医療では、音楽療法を受けた人と受けなかった人の比較で、受けた人の方が寿命が長かったという報告があります。認知症高齢者領域では、不安と不穏そして敵意の軽減があげられます。また音楽療法の実施後に、免疫に関わるNK細胞の活性化が認められます。障害児・者領域では、心と体の発達支援に役立つことが分かっています。
出典:日本音楽療法学会
音楽の癒し効果を図るものと思われるかもしれませんが、それは音楽療法のごく一部分に過ぎません。
音楽療法は心身機能の維持・改善や、望ましい行動へと変える(行動変容)などの効果を目的として実施されます。効果も幅広いため、何を目的で実施するかは対象者によって異なります。
以下に音楽療法の対象者と、目的とする効果の一例を挙げました。
音楽療法の「対象者」と「目的とする効果」
- 発達障害 → 心身の発達の促進、社会性向上など
- 身体障害 → 身体機能の維持・改善
- 精神障害 → リラクセーション、コミュニケーション能力向上など
- 高齢者 → 健康維持、介護予防
- 終末期の方 → ターミナルケアの一環、リラクセーション、疼痛緩和
など
少し音楽療法のイメージができたでしょうか?対象者も幅広く、その効果も多岐に渡るため、具体的にイメージしにくいかもしれません。
以下の動画では実際のセッションの様子をご覧いただけます。セッション経過中(3:01頃)、障害者の方の変化が見られます。音楽によって問題解決に至った例ですね。
発達障害のお子さんが音楽療法を受ける効果は?

発達障害でよく目的とされる効果
前述したように音楽療法を用いる目的は、対象者によって違います。
では、発達障害のお子さんが音楽療法を受ける場合は、どのような効果を狙っているのでしょうか?
発達障害の特性もお子さんによって異なるため、各々のお子さんによって音楽療法の目的が違います。
以下に、発達障害でよく目的となる項目を挙げました。
- 社会性の促進
- コミュニケーション能力の向上
- 非言語コミュニケーション能力の向上
- 興味・関心の拡大
- 集中力を養う
- 数の概念や言葉の学習
- 運動機能の発達の促進(発達性協調運動障害など)
など
項目が多いので、具体例を出してまとめます。
コミュニケーションや社会性の向上
集団セッションなど行う際は、指導者や他のお子さんとタイミングを合わせて音を出したり、身体を動かします。
そのため、人の動きを見る、人の音を聴いて合わせる、順番を待つといった「周りに合わせる練習」や、「ルールを守る練習」に繋がります。
周りと協力して1つのことに取り組むことも、社会性やコミュニケーション能力の向上の練習になります。
また個別セッションでは、お子さんを主役としてセラピストが合わせることで、音楽を使ったコミュニケーションや他者への関心を引き出すことも可能です。
- 例えば、お子さんが太鼓を適当に叩いているところに、セラピストがそのリズムに合わせて楽器を鳴らし、介入する。
- するとお子さんは、セラピストが自分に合わせてくれていることに気付き、リズムを変えたりしてセラピストがどんな反応をするか試す。
- この相互のやり取りの中で、徐々に他者と協調して音楽を作っていくことを経験していく。
このような過程の中で、他者に関心がないお子さんでもセラピストや周囲の人と合わせて太鼓を叩く経験を通し、協調性・社会性の向上を図っていきます。
非言語コミュニケーション能力の向上
非言語コミュニケーション(ノンバーバル・コミュニケーション)とは、「書く・話す」といった言語以外の手段を用いたコミュニケーションです。
相手の表情や顔色、視線、身振り・手振り、声のトーンなど。
言葉の遅れなどで「言語でのコミュニケーションが苦手なお子さん」や、人の顔色を読めない「非言語コミュニケーションが苦手なお子さん」、両者に音楽療法は活用できます。
興味・関心の拡大
発達障害のお子さんの中には、同じ遊びばかりして興味・関心の狭小化が見られることがあります。
音楽療法では、ピアノやラッパなど一般的によく知られている楽器だけではなく、打楽器や手作りの楽器、音だけではなく視覚的にも楽しめる楽器を使用することがあります。
お子さんが思わずやりたくなるような楽器を使って、活動の中にいかにそのお子さんを引き込むか。
音楽療法では、お子さんの特性や課題を把握したうえで、お子さんの興味を引くものを活用してセッションを進めていきます。
数の概念や言葉の学習
音楽を媒体として、言葉や数の概念を学習することも可能です。
リズムを取ったり、「三拍子・四拍子の枠の中で何回叩くか」など、自ら演奏すれば数の概念の学習に繋がります。
また、自発語が少ないお子さんでも、歌うことで発話を促したり、歌の中で合いの手のように他者に返事をすれば、会話の疑似的な練習に繋がります。
運動機能の発達の促進
発達障害では、発達性協調運動障害を併発していることがあります。
手足を同時に動かす、目で見た物に合わせて身体を動かすなど、協調運動に問題が生じるもの。
身体機能に問題がないのに、脳が運動をコーディネートできないため、身体をうまく使えない障害。
楽器を使用したり、音楽に合わせて身体を動かしたり、他の人の模倣をしたり。
音楽療法の中には、目と手の協調性や、手と足など身体の複数の協調運動を促す要素が含まれています。
発達性協調運動障害の問題や対処法については、こちらの記事も参考にしてください。
デメリットはないのか?
発達障害における音楽療法の効果を述べてきましたが、では逆にデメリットはあるのでしょうか?
音楽療法自体がデメリットになるという訳ではなく、「音楽療法の実施が困難になるケース、合わないケース」はあるようです。
以下に具体例を挙げます。
- 衝動性のため集団行動が苦手、緊張のため集団に馴染めない
- 聴覚過敏で音を不快に感じる
- 音に興味を示さない、聴覚自体に問題があり聴こえない
など
集団行動が難しい
衝動性や注意が逸れやすい特性がある場合、集団で周りと協調して取り組むことは難しいかもしれません。
また二次障害などもあり対人関係自体に苦手意識があると、集団の中に入れず、緊張してしまうかもしれません。
そのような場合は、「個別セッション」を利用してはいかがでしょうか?
音楽療法は集団で行うものと、音楽療法の教室や自宅で行う一対一の個別セッションがあります。
「まずは一対一で、刺激が少なく活動に集中できる環境で、落ち着いて取り組むことから始める」など、段階的にセッションのやり方を変化させることも可能です。
聴覚過敏で音を不快に感じる
聴覚過敏のため音を不快に感じるようであれば、音楽療法の実施自体が困難かもしれません。
しかし、聴覚過敏と言っても、どのような音が苦手かは人によって違います。
家電の音や高い声など特定の音が苦手、多くの音を感じ取り「聴きたい音」に集中できない、など。
苦手な音が分かると、その要素を取り除けば音楽療法が実施できるかもしれません。
また聴覚過敏は音を繊細に聴くため、音楽の方面で力を延ばす人もいます。
このような話をすると、「聴覚過敏でも音楽の才能を延ばそう」と考えるかもしれませんね。
しかし、必ずしも過敏性が才能に繋がるとは限りませんし、「持っている才能」と「本人が好きなこと・やりたいこと」は別物です。
美味しい物を見極める舌があるからといって、必ずしも「料理が好き、料理人になりたい」とは限りません。それは本人の興味や意思が決めることです。
音楽療法の「音楽は目的ではなく手段」という視点を忘れず、本人が選べる選択肢を増やすという立ち位置から、無理のない実施を検討していきましょう。
▼聴覚過敏についてはコチラも参考にしてくださいね。
音に興味を示さない|重度の難聴で聴こえない
興味の範囲が狭かったり、発達障害とは関係なく聴覚自体に問題がある場合も、音楽療法の実施が困難になることがあります。
しかし、音楽を楽しむ方法は「聴覚」だけではありません。
音を発することで、振動が生じます。
振動を利用することで、音楽を楽しんだり、音楽に参加できます!
例えば、透明なマラカスの中にカラフルなビーズが入ったものを使えば、音を鳴らす度にビーズが動く。鉄板の上に砂を乗せると、面白い模様を作る。水を利用すると、水面に広がる波紋を楽しめる。(視覚)
また、太鼓を叩くことで、腕には振動を感じる。太鼓や風船に身体を触れさせた状態で太鼓等を叩くと、身体で振動を感じる。(固有感覚)
感覚には、良く知られている五感(味覚・嗅覚・視覚・聴覚・触覚)に加え、固有感覚(身体に対する意識の知覚)・前庭感覚(身体の傾きやスピード、回転の知覚)を含めた7つの感覚がある。
固有感覚とは、関節・筋・腱の動きを検出する感覚で、更に3つに分類される。
位置覚(身体の各部位を感じる)、運動覚(動きの方向や速度)、振動覚。
音楽は目的でなく手段であることを忘れない
前述したように、音楽はあくまでも「手段」であって「目的」ではありません。
ある効果を狙って音楽療法を検討したが、実施が困難だった場合、必ずしも音楽療法に固持する必要はないのです。
上記のように一見して実施が困難な場合も、工夫すれば実施できるかもしれません。
その可能性も考えた上で、やはり実施が難しければ、無理に音楽療法という手段を取る必要はありません。
▼音楽療法ではありませんが、習い事としてのピアノもオススメです。
音楽療法の具体的な進め方は?

では、音楽療法は実際にどのように進めていくのでしょうか?
音楽療法は対象者によって目的や手法も異なるため、ここでは主に発達障害で用いられるものをお伝えします。
発達障害によく用いられる音楽療法の手法
音楽療法の中には、「受動的アプローチ」と「能動的アプローチ」があります。
受動的アプローチは、音楽を聴くことでリラクゼーションを測るものです。
能動的アプローチは、自ら音を鳴らしたり身体を動かし、音楽に自ら関わっていくものです。
発達障害における音楽療法では、自ら音楽に関わっていく「能動的アプローチ」を用いることが多いようです。
また、セッションの形態には「集団セッション」と「個別セッション」があります。
集団セッションでは、5~10人ほどのグルーブや、30人ほどの大きなグループで実施することもあります。
お子さんの特性や目的とする効果によっては、一対一の「個別セッション」の方が向いているでしょう。
発達障害におけるセッションの流れ
アセスメント(評価)
発達の過程やスピードは各々のお子さんで違いますので、そのお子さんの発達過程に合った課題を実施していきます。
セッション中のお子さんの様子を観察し、心身機能や行動、社会的スキルなどをアセスメントします。
またご両親や療育に関わるスタッフ、主治医からの情報や、医学的・心理的検査などを総合して、ひとりひとりの状態を把握し、保護者とも相談の上、目標を設定することもあります。
これらのアセスメントを経て、お子さんの改善・発達が望まれる部分に介入していくのです。
音楽療法の実際のセッション
対象者や目的とする効果で異なりますが、ここでは発達障害でよく用いられる集団セッションの一例をお伝えします。
①始まりの歌
音楽を聴いたり一緒に歌うことで、始まりの合図をします。
覚醒が低かったり、状況理解が苦手なお子さんにも、セッションが始まったと認識しやすくなります。
②歌唱や楽器演奏
歌や楽器を用いて、集団で音楽を楽しみます。
「Aさんはカスタネット、Bさんは太鼓。Bさんが終わったら、Cさんに太鼓の撥を渡しましょう。」
順番を待つ、周りを見てみんなに合わせる、協力して1つのことに取り組む、楽器を通して表現することなどを学びます。
③ゲーム
例えば「あんたがたどこさ」を歌いながら、タイミングを合わせて指定された行動(太鼓を叩く、ジャンプするなど)を行う。
集団で協力して大きな布を動かし、布上のボールをタイミングよく合わせて跳ねさせる。
タイミングを合わせる、ルールを守る、協力することなどを学習。
また、心身の発散、身体の運動機能の向上などを図ります。
④絵本
クールダウン。「自ら音を出す」ことの逆で、静かにする、話に耳を傾ける。
時にはみんなで声をそろえて音読する。例えば「おおきなかぶ」の「うんとこしょ、どっこいしょ」などの掛け声。
高揚した気持ちを落ち着かせます。
また、人の話を聞く、周りと合わせて音読することを学びます。
➄終わりの歌
歌や楽器演奏して、終わりの挨拶。使用した道具を片づける。
締めくくる音楽や、終わりの挨拶はセッションの終わりを認識します。高揚した気分を落ち着かせて、切り替えられるようにします。
また、みんなで片づけることも学びます。

音楽療法で使用する道具
対象者の年齢や好み、音楽療法を実施する目的など、いろいろな側面から考慮するため、使用する楽器も多種多様です。
一般的によく知られている木琴やトライアングル、カスタネットなどの他にも、民族楽器、お子さんの興味を引きやすい手作りの楽器など。
視覚でも楽しめるように透明のマラカスの中にカラフルなビーズが入ったものもあります。
身体機能や引き出したい動作によっては、手首や足首に鈴の付いたバンドを付けたり、必ずしも手に持って楽器を使用するとは限りません。
下記の商品は、足で踏むことで音を鳴らす楽器です。
カラフルなパッドです。変わった楽器で興味を引き出したり、足で踏めばバランス能力や運動機能の向上を期待できます。
音楽療法を受ける場所や費用は?

音楽療法を受けられる場所
病院の小児科、精神科、リハビリテーション科、社会福祉法人、NPO団体が運営する障害児入所・支援施設、発達支援センター、デイサービスセンターなど。
音楽療法の教室や、対応している病院や施設の中で行うこともありますが、訪問も対応している場合もあります。
音楽療法士が常勤ではなく非常勤であったり、毎日ではなく月に数回の場合もあります。
自分の住んでいるエリアで調べてみましょう。
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音楽療法士は1997年に民間資格の認定が開始された比較的新しい資格です。
そのため、まだ日本では有資格者が少なく、看護師や介護士など他の職種を兼任しながら、その業務の中で音楽療法を取り入れているようです。
また音楽療法士が非常勤として、複数の施設を定期的に巡回している場合もあります。
そのため、地域によってはインターネットで検索してもなかなか実施施設が見つからないことがあります。
実施時間
30分~1時間ほど。
個別か集団か、お子さんの体力や集中力、実施の目的などによって異なります。
また、セッションの過程の中で、お子さんの反応に合わせて変化させることもあります。
料金
利用する施設や地域によっても異なりますが、施設だと1回700~1300円、訪問の個別セッションだと3000~7000円ほど。
施設や実施時間、お住いの地域によっても異なります。
高齢者の場合は、病院や介護施設のレクリエーションの一環として、無料で受けられることもあるようです。
体験セッションなどを実施しているところもあるため、料金や実施内容に納得した上で始められると安心です。
「受給者証」をお持ちの場合、国に認められている事業所であれば、費用負担を受けられます。
費用負担額は地域や世帯年収で変わる点に注意しましょう。
受給者証の取得については、以下の記事を参考にしてください。
以下はデイサービスに関する記事ですが、「教室選びのポイント」の部分について、音楽療法も含め習いごとを検討する際の手助けになります。
楽器を用意する必要があるのか?
珍しい楽器を使うこともありますが、ほとんどの場合セラピスト側が用意するため、特別な楽器を購入する必要はありません。
自宅訪問で行う場合に、自宅にあるピアノやおもちゃの楽器など、既存のものを利用する。
お子さんの興味を引くため、いっしょに手作り楽器を作る、というケースはあります。
まとめ
今回は、発達障害における音楽療法の効果と適正についてまとめました。
音楽療法の目的は、音楽を媒体として対象者の心身機能を維持・改善したり、望ましい行動を引き出すことです。
聴覚過敏や集団行動が苦手であると実施が困難な場合はありますが、前述したように苦手の要因を分析・工夫すれば実施可能なケースもあります。
「音楽は目的ではなく手段」という視点を忘れず、無理のない実施を検討していきましょう。
まだ日本では音楽療法が十分普及していません。しかし近年では施設や医療現場など活躍の場も徐々に広がっています。
興味がありましたら、お近くの発達支援の関係機関に問い合わせてみましょう。

児童発達支援と放課後デイサービス 運動・学習療育アップでは発達障害のある児童を対象に、デイサービス事業を行っています。
お子さんの成長の段階に合わせて様々なプログラムを実施していますので興味があれば、ぜひお問い合わせください。
最後までお読みいただきありがとうございました。