皆さんこんにちは!本日も発達障害等に関する学びや情報交換の場所なることを願って投稿させて頂きます。
今日のトピックは「発達障害とトリセツ」についてです。
今回は、「トリセツ」が受け入れられない場合の対処法についてお話します。
目次
「トリセツ」が受け入れられない場面別の対処法
トリセツとは
「トリセツ」とは取扱説明書の略称。
本来は、家電などの機器や道具を「どのように扱えば良いか」示している冊子のことです。
しかし最近では、「ある対象の人との付き合い方」といった意味が浸透しており、ヒット曲やドラマの題名にもなったため、広く使われるようになりました。
医療や福祉の現場では、「対象者を支援するための連携ノート」という意味で使われています。
発達障害では、「トリセツ」と同様の意味で「サポートブック」「サポートファイル」「ナビゲーションブック」など違う名称が使われることもあります。
発達障害とは、脳機能の発達がアンバランスで、その凸凹によって社会生活に困難が生じる障害の総称。行動や認知の特性により、主に自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の3つに分類される。
これら3つの特性を単独ではなく、複数持っている人も少なくない。
発達障害は、発達の仕方や感覚の受け取り方に凸凹があるため、生活のなかで様々な困り事が見られます。
トリセツは、そのようなお子さんの困り事に対し、「家族や学校など関わる人たちで情報を共有し、進級など変化する時期でも切れ目のない支援ができること」を目的に使います。
様々な理由でトリセツの使用を受け入れられない場合がありますが、その場合はトリセツを使わなくても目的を果たせるように工夫を考えましょう。
学校に受け入れられない場合
家庭とは違う
親御さんの提案する対応法は、あくまでも「家庭で考えた、家庭でできる対応法」です。
学校の集団の中では、同じようにできない場合も多いと思われます。
学校で行うことを想定して書いていても、やはり想像で書くことになり、理想と現実の間に差があるかもしれません。
「情報提供はするが、その判断はお任せする」くらいの気持ちから始めましょう。
担任1人に負担をかけない
「トリセツ」配布のため面談などする際は、できるだけ他の学校の支援者も巻き込みましょう。
特別支援学級の先生、保健師、スクールカウンセラー、学年主任などの管理・指導的立場の先生など。
はじめに関わってもらうことで、担任の先生一人に負担をかけず、先生自身も何かあれば他の教員に相談できる体制を作ることにも繋がります。
また、複数の先生に関わってもらうことで、進級や先生の転勤などがあっても切れ目のない支援ができるかもしれません。
「トリセツ」はお子さんを支援するためだけではなく、関わっている先生などの「支援者も助けるツール」という視点で使いましょう。
助け合うという姿勢で、学校と良好な関係を作っていきましょう。
「話し手・伝える相手」を変える
色々なタイプの先生がいるため、同じ内容でも話し方などによって、受け取り方が違ってくる可能性があります。
そのような場合は、「話し手」や「伝える相手」を変えてみましょう。
専門家などの立ち合いができない場合は、意見書を添えたり、「専門の○○先生が言っていた」と言葉を添える。
まずは特別支援学級の先生や、担任の先生が信頼しているような他の先生から話してみる、など。
根拠や専門性を重視する先生の場合は、医師や療育の専門家から意見であれば、受け入れが良くなるかもしれません。
また他に理解者を作っておけば、何かの機会に担任の先生へ話してもらえるかもしれません。
先生同士の関係性などもありますので、無理のない範囲で検討してみましょう。
受け入れられる機会を待つ
学校の先生も多くの生徒を抱えており、その時々で「目を配らないといけないお子さん」が増減したり、行事やテストなどで必ずしも「目配りや支援」がいつも一定量とは限りません。
状況によっては受け入れやすくなったり、話を聞いてもらいやすい時期があるかもしれません。
一度断られたからと完全に諦めず、無理のない範囲で受け入れられないか、話す機会を待ちましょう。
先生と信頼関係を作る
「お願いしたい時だけ、話を聞いて欲しいときだけ」の関係では、やはり良好な関係は築けません。
良い関係を築くためには、普段のコミュニケーションで信頼関係をつくり、折に触れて感謝の気持ちを伝えましょう。
話を聞いてもらえた。工夫など対応してもらえた。
良いことでも悪いことでも、学校での様子を報告してくれた。
お子さんから「褒められた」「協力してくれた」と報告された、など。
お子さんに「良い変化」があった場合も情報共有したり、感謝の気持ちを伝えましょう。
本人が受け入れられない場合
大人が考えると必要なことでも、子どもの立場で考えると 「必要性が分からない」 「必要と分かっていても使いたくない」という場合もあるかもしれません。
「なんでそんなの書かなきゃいけないの?
他のみんなは、やってないのに。
僕はみんなと、同じじゃないの?」
お子さんからしたら、当然の疑問かもしれません。
このような「トリセツ」を使うということは、少なからず本人に「告知」したり、周りに「カミングアウト」することになります。
大人でさえ「障害の受容(ありのままを自分で受け入れること)」は難しいことなので、幼いお子さんにとっては大きな負担になることがあります。
特に子どもの時期は、「お友達と同じことをしたがる、みんなとの違いを強く意識する」という傾向が見られます。
また、「特別扱い」されることを嫌がったり、恥ずかしいと感じることもあるかもしれません。
一見すると「普通の子」と思われるので、それをわざわざ「少し違う」と自ら明かすことは、お子さんが納得できないかもしれません。
お子さんの気持ちに寄り添いながら、無理のない範囲で対処法を考えてみましょう。
焦らず時期を待つ
早期から取り組むことは良いことですが、幼いうちは必ずしもトリセツは必要ないかもしれません。
多動性・衝動性などの特性は、幼いころは「元気、活発」など個性として認められ、あまり問題と思われないことが多いようです。
また成長とともトリセツを受け入れる可能性もあります。
「~できるようになりたい。上手になりたい」など、 「トリセツを受け入れたくない気持ち」よりも、大事にしたいことが出てくるかもしれません。
あとでお話するように、必ずしもトリセツを使わなくても、「情報共有やお子さんへの支援」といった目的が果たせることもあるかもしれません。
トリセツの受け入れについても、あまり焦らず長い目で見守りましょう。
メリットを伝える
なぜ必要なのか、本人が分かっていない場合もあります。
「白い紙だと、眩しいでしょ? 先生に、窓際の席は避けてください、
ちょっとだけ色のついた紙を使わせくださいって、お願いするの。
そしたら、みんなと一緒に大好きなお絵かきもできるでしょ。」
お子さんに分かる言葉でトリセツのメリットを伝えましょう。
また、お子さんがある程度考える力があれば、一緒に考えて対応策を出しましょう。自分も一緒に考えたことであれば、受け入れられるかもしれません。
「眩しくてお絵かきができないね。どうしたらいいかな?」「誰にお願いしたら良いと思う?」など。
さりげなく周囲の理解を促す
「周りに知られたくない」と思うお子さんもいます。
しかし、お子さんが考えている「知られなくない相手」は、先生や周りの大人ではなく、お友達やクラスメイトではないでしょうか?
先生など周りの大人にまで、お子さんの意思を尊重しようと思って「知られないように」配慮していては、かえってお友達やクラスメイトに知られたり、「違い」が目立つ結果になるかもしれません。
「知られたくない相手はだれかな?
学校の先生に伝えておいたら、協力してくれるかもしれないよ。特別扱いにならない方法を先生にも伝えたいから、トリセツを渡したいの。」
お子さんの意思を尊重しつつ、お子さんの「知られたくない」と考える真意も整理できるよう支援しましょう。
学校へ
- 光を過敏に感じるので、あまり眩しくない席になるよう、さりげない配慮をお願いします。
- 「聞く」ことが苦手なので、プリントや板書、掲示板も利用してできるだけ「見て分かる情報」を、みんなと同じようにさりげなくお願いします。
お友達へ
「呼んでも無視する、自分勝手に遊びから抜ける」など誤解されないよう、情報を伝えておきましょう。
- 急に話しかけても気付かないことがあるから、近く肩トントンして、気づいてからお話してね。
- 疲れやすいから、時々隅で休むけど。あとでまた遊びに入れてあげてね。
お友達の親御さんへ
- 食べ過ぎるので、おやつは小分けに出してもらえると助かります。
- 悪気なく借りたものを忘れることがあるので、気づいたことがあれば遠慮なく連絡してください。
親御さんが受け入れられない場合
焦らず時期を待つ
先生や周りの療育に関わるスタッフは「トリセツ」の利用を検討していても、親御さんが受け入れられない場合もあるかもしれません。
本人が障害の受容ができないこともありますが、親御さんなど身近な人が、お子さんの障害を受容できていない場合もあります。
この場合も焦らず、親御さんの気持ちが整理できる時間を待ちましょう。
個人情報への配慮
「トリセツ」には住所や電話番号、家族構成、自宅での様子など、様々な個人情報を書く欄があります。教員や療育に関わるスタッフが、個人情報を適切に取り扱うのは当然のことです。
しかし親御さんが抵抗がある項目などある場合、必ずしもその項目を書く必要はありません。
親御さんが了承できる項目だけ書いてもらことも、提案してみましょう。
「トリセツ」以外の情報共有の形
トリセツを使う目的は「情報共有し、お子さんに切れ目のない支援をするため」です。
「 学校で上手くいった方法を、自宅でも試してほしい。」
「自宅では上手くできているようなので、コツがないか知りたい。」
目的が果たせるのであれば、必ずしもトリセツを使う必要はないのです。
代わりの「情報共有できる方法」を検討しましょう。
- 他のお子さんと同様に、連絡帳で連携を図る。
- プリントなどを使う。
- 送り迎えの時に、随時報告・相談する。
- 「話したいことがあればいつでも聞くので待っている」ことを伝える。
- 通常の授業参観や三者面談で情報共有する。
トリセツのメリット・デメリット
ここまで、トリセツが受け入れられない場面と、各場面での対処法をお話しました。
ここからは、トリセツの「メリット・デメリット」、両方の側面をお話します。
トリセツの「メリット・デメリット」を知れば、受け入れられない気持ちを理解し、解決する助けになるかもしれません。
トリセツのメリット
トリセツは情報共有などを目的としたのツールですが、作成するだけでもメリットがあります。
関係機関に渡す予定がなくても、作成することで様々な気付きがあるかもしれません。
書類作成の効率化
相談機関に行くたびに、「生年月日、出生体重、家族構成、特徴、家や学校での様子」など、同じことを聞かれることがないでしょうか?
相談機関によっては、トリセツのような情報がまとまったもののコピーでも対応してもらえることがあります。
どうしても書類を書く必要があっても、手元のトリセツを見ながら書けば、「毎回思い出しながら書く」という手間も省けます。
各機関の連携強化
「家庭や学校、デイサービス、塾、習い事、行政機関」などで情報を共有するためにも役立ちます。
トリセツによっては、「自宅での様子」「学校での様子」などの項目もありますので、他の場面ではどのような様子か把握できます。
切れ目のない支援
入園・入学・進学・就職など。
ライフステージが変わるたびに担任の先生が変わり、周りの友達も変わります。
その度にお子さんの特性を一から説明するのは大変ですし、せっかく情報が蓄積しているのに再度それをまとめるのは効率的ではありません。
「トリセツ」を使用することで、ライフステージが変わってもスムーズに移行することができます。
本人の情報整理・自己理解
お子さんもトリセツを作りに参加することで、「何が苦手・得意で、どうやったら上手くできるのか」自分で理解することに繋がります。
また成長してから見直すことで、自分のこれまでの生活を振り返り、自分なりに生活の中の工夫や周りとの付き合い方を考える助けになるかもしれません。
また、お子さんが大人になっても、相談機関に行くたびに「子どもの時はどうだった?」など書類に記載する手間が省けるかもしれません。
幼い頃のことは本人でも覚えていないので、年代によっては本人よりトリセツの方が詳しい情報を持っています。
将来に情報を届ける
本人だけでなく、就労支援の担当者、職場の上司、友人・結婚相手なども、トリセツから情報を受け取ることができます。
本人との「付き合い方」や「支援の仕方」を考える時も役立ちます。
客観的な視点
情報を書き出すことで、親御さんの中でも情報が整理されます。客観的に見ることで、普段は気づないことを発見するかもしれません。
気付かなかった困り事、問題点、改善策など。
「できるようになった、上手になった」という成長にも気付くかもしれません。
デメリット
「メリット」の反対として、「デメリット」の中に入れていますが、ここに挙げた項目が「悪いこと、間違っている考え」という訳ではありません。
トリセツの使用を拒否する時に、「断る理由や要因になる項目」という意味でこちらに分類しています。
トリセツを導入する時は、「これらの理由で拒否されることもあり得る、それに配慮しながら進める必要がある」と言うことを記憶にとどめておきましょう。
面倒だと受け取られることがある
トリセツの書式によっては、かなり詳細に多くの情報を書くことになります。
受け取る側からすると、面倒に思われることもあるかもしれません。
状況に合わせて、「全ての情報を渡すのではなくポイントだけ伝える」など、情報を絞って伝えましょう。
書くのが大変
書く方にとっても、あまりに書く内容が多いと、はじめから拒否することもあるかもしれません。
こちらの場合も、「大事なところだけ要点を絞って書く」ことから始めてみましょう。
時間がある時に、少しずつ書いても構いません。
毎回書類を書くことや、その後の効率化も考えると、かえって時間節約で効率が良いと思われます。
告知・カミングアウトに繋がる
「本人が受け入れられない場合」でもお話したように、トリセツを使うということは、本人にとっては「告知」することになり、周囲の人には「カミングアウト」することになります。
お子さん本人も、親御さんも、抵抗があるかもしれません。
大人でも障害を持ったら、受容に時間が必要です。
もしこれらの理由でトリセツに抵抗がある場合は、本人の気持ちも尊重し、焦って無理に進めないように注意しましょう。
カミングアウトについての考え方や情報については、こちらの記事も参考にしてください。
「トリセツを共有しない」という選択肢
また、必ずしも「カミングアウトするのが正解」という訳ではありません。
このTwitterのように、「ノーマルさを達成することが重要」と考える人もいます。
その場合も、対処法を考える時に「情報がまとまっているトリセツ」は役に立つかもしれません。
必ずしも共有する必要はなく、「特性や対策など情報を整理するツール」として使うこともできます。
自分に合った「トリセツ」がない場合
アレンジする|複数利用する
トリセツの形式は決まっておらず、いろいろな種類があります。文章、マークシート、表、絵や図など、いろいろな記載方法があります。
トリセツにも「細かく情報を書くもの」「大まかに要点だけ書くもの」いろいろなタイプがあります。
「自分が必要と思っている項目がない」「使ってみたけど、自分に必要な項目が不十分」ということもあります。
「足りない項目は自分で追加する、いくつかのトリセツから必要と思われる部分だけ使う」など、アレンジすることも考えてみましょう。
こでは少し特徴的なトリセツを紹介します。
ナビゲーションブック
「ナビゲーションブック」というトリセツを紹介します。
ナビゲーションブックに特徴的な項目を、下記に挙げました。
- 情報処理過程のアセスメント(78項~)
情報の「受信 → 思考・判断 → 行動」 の評価 - 職場環境対応プロフィール(81項~)
職場の温度や照明、作業場所の持ち場の離れにくさ、人の多さ、など - 注意・集中の特徴(83頁~)
注意・注中、作業を中断して再開した時、物や予定の管理、など - ナビゲーションブック(85項~)
実習の目標、セールスポイント、配慮をお願いしたいこと、求職者用、在職者用のシート、など
「ナビゲーションブック」の特徴の1つは、「情報処理過程」についての評価があることです。
発達障害のお子さんは、同じ事柄でも他の人と「受け取り方」が違ったり、「感覚の受け取り方」にも凸凹が見られることがあります。
そのため、通常とは違った「思考・判断」をすることがあり、それが特徴的な「行動」に出ることがあります。
この「受け取り方 → 思考・判断 → 行動」の情報処理過程を書くことで、対処法だけでなく、「なぜそうするのか、どんな関連があるのか」など理由や因果関係も理解することができます。
他にも、音や光などの感覚も含めた職場環境の評価や対処法、「実習中・求職・在職者用のシート」もあります。
書き出すことで、「本人の特性」と「周りの環境」の関係が整理でき、対処法を考える時にも役立ちますので、参考にしてください。
こちらからダウンロードできます。
「デメリット」のところでお話したように、「トリセツを受け入れないこと=悪いこと」ではありません。
トリセツの使用を拒否するからと言って、「協力的ではない、親身に対応していない、理解がない」という訳でもありません。
学校、本人、親御さん、それぞれに考え方や想いがあります。
各々の考えや立場を尊重し、「トリセツ」の使用を無理に進めたり、押し付けたりしないよう注意しましょう。
まとめ
今回は、「トリセツ」が受け入れられない場合の対処法を、場面別に分けてお話しました。
トリセツを使用する目的は「情報共有と切れ目のない支援」です。
他の方法で目的が果たせるのなら、無理に使用を進める必要はありません。
せっかく作成したトリセツを受け入れてもらえないと残念に感じますが、相手の立場や考え、デメリットもあることを知り、他の方法で情報共有や連携することも考えましょう。
トリセツはお子さんだけでなく、「関わっている支援者もサポートするもの」だという視点を忘れず、支援者同士で助け合い、良好な関係を作っていきましょう。
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